お試しコンタクトの示し方
やる気もとても旺盛で、食事の内容をほとんど変えなくても、すぐに体重が一キロ落ちた。
初期のデータとしては非常に良好だった。
この調子なら2ヵ月で5キロ減の目標は達成できそうだと、本人も私も楽観していた。
ところが、1ヵ月を過ぎたあたりから、全然体重か落ちなくなった。
朝計ったら51キロ、夜計ったら52キロというように、むしろ増加傾向にある。
当然本人は、「あれ、あれ?」という感じで不安になる。
彼女は生活リズムは別に悪くないのだが、仕事柄、夜のお付き合いか少なくない。
体重を減らすには、トレーニングだけでなく、食事のコントロールもとても大事なのだが、当時の私はそこまで踏み込んだ指導ができなかった。
効果か表れないと当然モチベーションは低下し、次第にジムに来る頻度か落ちていった。
来るのは私かレッスンする週1回だけになり、当初の予定の「残り週2回は自分でトレーニングする」という部分が飛んでしまった。
そのうち、週に1度の私のレッスンにも、「ちょっと行けなくなってしまった」とか、「時期的に忙しい」などと言って、だんだん来なくなってしまった。
ところか、指導を中断して2、3ヵ月しか頃、彼女が再びジムにやってきた。
驚いたことに、かなり痩せている。
なんでも、ひと月に4日間ぐらい、断食道場に泊まって断食しているそうなのだ。
だから、ジム通いを再開したのも、筋トレというより軽い有酸素運動をするのが目的で、彼女のなかで痩せる方法のメインは断食になっていた。
そんなこともありながら、かれこれ3~4年おつきあいが続いたか、その間、確実に彼女の体脂肪率は上がってきた。
人間の筋量はだいたい25歳ぐらいで成熟を迎え、30歳ぐらいでピークになる。
彼女は40代前半だから、ちょうど下降線の途中にいる。
だが、これは適正な栄養が摂取された場合の変化であって、栄養摂取が不十分だと、下降カーブはもっとガクンときつくなる。
私たちが必要とする栄養素のなかでも、特にたんぱく質は体の中で保持しておくことができないので、厚生労働省では、1日に60グラムの摂取を勧めている。
アメリカでは、「体重一キロあたり2グラムのたんぱく質を摂りましょう」と言っている。
彼女が通っていた断食道場はかなり本格的で、断食中は白湯くらいしか飲まず、たんぱく質の補給もない。
しかしその間も、筋肉は分解と合成を繰り返しており、たんぱく質を必要としている。
そうすると、4日間もたんぱく質を摂らないでいると、その分どこかから補わないといけないため、体は自分の持っている筋肉を分解してしまうのである。
20代なら、筋量はまだ上昇カーブにあるから、いったん筋肉か分解されても、また増やすことが可能だ。
しかし40代ではそうはいかない。
彼女の体重は相変わらず52~53キロ。
断食をすると40キロ台になるそうだが、体脂肪率は常に高めだ。
その年代の女性だと30%くらいが平均値なのだが、彼女は35%くらいある。
体脂肪が増えてきているということは、筋量が減っていることを意味する。
つまり、彼女は同じ年齢の女性よりも筋肉か少なくなってしまっているのだ。
「わずか5%上回っているだけだったら、大したことないのでは」と思う人もいるかもしれなしかし考えてほしい。
歩いたり走ったりするだけでなく、言葉を発することも、文章を書くことも、脳で考えたことは、筋肉によってしか表現できない。
脳で考えたことを、人間の具体的な活動にしてくれるのは、すべて筋肉の働きだ。
だから体脂肪が増えて筋肉か減ったということは、人間としての表現方法の手段が減るという、とても重大なことなのだ。
だから、トレーニングにおいては、ウェイトロスを目的とする場合でも、体重そのものよりも、体脂肪率を重視するのである。
彼女の場合、本人は体重をとても気にして、断食してから1週間ぐらいは、体重が49キロをキープできるので、もっと断食に行く時間がとれさえすれば痩せられると思っている。
しかしそれでは見かけの体重は減らせても、脂肪か増えて筋肉か減るという悪循環を繰り返すばかりだ。
振り返ってみれば、彼女はトレーニングを始めた当初から痩せることを目的としていて、具体的な目標数値も持っていたのだが、「では何のために痩せたいのか」というところが曖昧だった。
その点をもっとつきつめて、筋トレはクオリティーオブコフイフの向上を目的としてやるものだというところに意識を向けることが重要なのだ。
それを伝え切れなかったのは、私の反省点でもある。
今度は成功事例を紹介しよう。
クライアントは40歳の女性で、体型は中肉中背、職業は医師。
この人の目的は「健康的な生活を送りたい」「いつまでも健やかでありたい」というもので、目標は「トレーニング方法を習得して生活の一部にする」ことであった。
それを1年間ぐらいかけてゆっくりとやっていきたいという。
トレーニングの頻度としては、平日の夜に筋トレのレッスンを週2回。
ほかには、ヨガを土日に一回やることにした。
運動経験はほとんどない。
体力レベルも普通だ。
そこで初めのうちは、ともかくジムに来てもらうことに専念した。
本人自身も、「別にそんなに無理はしないで、まずはジムに来ることが大事だ」という考えをはっきり持っていた。
2ヵ月目の後半ぐらいから、トレーニング種目と実際の動作が結びつくようになった。
たとえば私か『ペンチプレス』と言うと、「あっ、あのバーベルをあげる種目ね」と反応できる状態だ。
そこでこちらは、待ってましたとばかりに、難しい種目や強度の高い運動を勧めてみた。
ただ、積極的に指導はしても、―回のレッスンにたくさん種目を詰め込むことはしなかった。
1回にせいぜい4、5種目と、とてもゆっくりしたペースだ。
一つの種目をだいたい4週間ぐらい続けると、トレーニング効果は頭打ちになる。
体が適応してしまい、刺激として認識されなくなるからだ。
その場合、変える要素としては、重さか種目のどちらかなのだが、やたらに負荷を上げて筋肉を増やしていくことは彼女の目的からは外れてしまうので、種目を変えることにした。
どんなジムでも、体の一つの部位に対して行える種目は、せいぜい数種目だ。
だから、4週間ごとに種目を変え、ときどき過去の種目に戻って復習、というふうにプログラムを実行していった。
彼女がすごいのは、その間一度も、「痩せたい」と言わなかったことだ。
男女を問わず、実際に太っているかどうかを問わず、トレーニングに来る人のほとんどは、二言目には「痩せたい」と口にするのだが、彼女は本当にひと言も言わなかった。
レッスンでは、1ヵ月に一回、体脂肪や体重を測定する。
あるとき私か「今月は体重か増えましたね」と言っても、「あ、そっか。
昨日食べ過ぎたからなあ」と淡々としていた。
そして翌月には体重を戻し、トータルでは体脂肪減少の方向に向かっていった。
そんな調子で1年が経過し、ジムでできる種目をあらかた覚え、パーソナルレッスンはやめたのだが、トレーニング自体はいまも続けている。
彼女ははげしい運動の仕方を覚えるという当初の目標を達成した。
痩せることについても、関心かなかったわけではないと思うのだが、「痩せることは、トレーニングを続けていくという流れの中での通過点にすぎない」ということをよく分かっていた。
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